会社員のときと何が変わるのか
会社員として働いていたとき、所得税と住民税は給与から自動的に天引きされていました。年末調整という形で会社が計算まで代行してくれるため、自分の税額を細かく把握していなかったという方も多いはずです。
個人事業主になると、この仕組みがまるごとなくなります。1年間の売上と経費を自分で集計し、所得を計算し、税額を確定させて納付する。この一連の流れを、すべて自分の責任で行うことになります。分かりにくさの正体は、税金そのものが難しくなったからではなく、それまで会社が代わりにやってくれていた作業が急に自分の手元に来たから、という面が大きいのです。
そしてもう一つ、会社員時代との大きな違いがあります。それは「納付のタイミングが後からまとめてやってくる」という点です。天引きなら毎月少しずつ払っていたものが、個人事業主では申告後に一括で請求されます。手元にお金を残しておかないと払えない、という状況が起こりやすいのはこのためです。
どちらも「所得」がベースになっている
所得税と住民税は別々の税金ですが、計算の出発点になる数字は同じ「所得」です。ここを理解しておくと、二つの税金をバラバラに覚える必要がなくなります。
大まかな流れは次のようになります。
| ステップ | 計算する内容 |
|---|---|
| ① 収入(売上) | 1年間に受け取った事業の売上金額 |
| ② 経費を引く | 売上を得るためにかかった費用を差し引く |
| ③ 事業所得が出る | ①−②。青色申告特別控除もここで差し引く |
| ④ 所得控除を引く | 基礎控除、社会保険料控除、扶養控除など |
| ⑤ 課税所得が確定 | この金額に税率をかけて税額を計算する |
注目していただきたいのは、②の経費と④の所得控除が、どちらも最終的な課税所得を下げる働きをしているという点です。売上をいくら増やしても、この二つを把握していなければ税負担だけが重くなっていきます。逆に言えば、経費と控除をきちんと拾い上げることが、そのまま手取りを守ることにつながります。
所得税は「稼ぐほど税率が上がる」累進課税
所得税は、課税所得が多くなるほど税率が段階的に上がっていく累進課税という仕組みを採っています。税率は5%から45%までの複数の段階に分かれており、課税所得の水準に応じて適用される率が変わります。
ここでよくある誤解が「税率の段階が一つ上がると、所得全体にその高い税率がかかってしまう」というものです。実際にはそうではありません。上がった段階の税率がかかるのは、その段階を超えた部分だけです。段階をまたいだ瞬間に手取りが逆転する、といったことは起こらない仕組みになっています。
住民税は「所得割」と「均等割」の合計
住民税は、お住まいの都道府県と市区町村に納める地方税です。所得税とは性格が異なり、次の二つの合計で決まります。
- 所得割 … 所得に対して、おおむね一律の税率がかかる部分
- 均等割 … 所得の多い少ないにかかわらず、定額でかかる部分
所得税のように大きく変動しない代わりに、所得が低い年でも均等割の分は発生するという特徴があります。「今年は売上が少なかったから税金はほとんどないだろう」と考えていると、思わぬ請求が来ることがあるのはこのためです。
住民税は1年遅れてやってくる
住民税でもっとも注意したいのが、支払いのタイミングです。住民税は前年の所得をもとに計算され、その翌年に納付します。つまり、売上が大きかった年の住民税は、翌年になってから請求されます。
これは、収入が落ち込んだ年に前年分の高い住民税がのしかかる、という状況を生みます。廃業した年や、事業を縮小した年にこの負担で苦しむケースは珍しくありません。売上が良かった年ほど、翌年分の資金を別に確保しておくことをおすすめします。
控除を知っているかどうかで差がつく
所得控除には多くの種類がありますが、個人事業主が特に関わりの深いものを挙げておきます。
| 控除の名前 | どんなときに使えるか |
|---|---|
| 基礎控除 | 合計所得金額が一定以下なら、誰でも受けられる |
| 社会保険料控除 | 支払った国民健康保険料・国民年金保険料の全額 |
| 小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済やiDeCoの掛金の全額 |
| 医療費控除 | 1年間の医療費が一定額を超えたとき |
| 扶養控除・配偶者控除 | 扶養している家族がいるとき |
| 青色申告特別控除 | 青色申告の要件を満たしたとき(最大65万円) |
このうち社会保険料控除は、個人事業主にとって非常に大きな存在です。国民健康保険料と国民年金保険料は決して安くありませんが、支払った全額が所得から差し引けます。「保険料は取られるだけ」と感じてしまいがちですが、税額の計算では確実に効いてくると知っておくだけで、受け止め方が変わってくるはずです。
また、青色申告特別控除も見逃せません。要件を満たせば所得から最大65万円を差し引けるため、所得税と住民税の両方に効いてきます。帳簿づけの手間は増えますが、それに見合うだけの効果があります。
自分の場合の概算を見てみる
実際の負担感は、収入・経費・控除の組み合わせによって大きく変わります。数字を入れて確かめてみてください。
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